ウルトラマンエースがいるんですよ その日は時代劇の撮影だった。楽屋の前で2、3人のエキストラがヒソヒソと話していた。その中の一人、友人Tが小声で「赤井、赤井!」と私を手招きする。 「そこにウルトラマンエースの役者さんがいるんだよ」。楽屋の中をのぞき見ると、入り口に近いパイプ椅子に座っているのは、まさしく北斗隊員を演じた高峰さんだった。 楽屋の前に来た別のエキストラにも、「ウルトラマンエースがいるんですよ」とTが声をかけ、中をのぞき込んだ人は目を丸くして驚いた。 北斗隊員の向いに座る その後のことはよく覚えていないが、私は高峰さんの向いの椅子に座った。北斗隊員を間近で見てやろうと思ったのか、その椅子しか空いていなかったのかは定かでない。 エキストラはタレントさんに話しかけてはいけない規則なので、高峰さんが前田吟さんと話しているのを出番が来るまでじっと見ていた。その間にも、エキストラが代わる代わる入り口に来ては、高峰さんの姿をのぞき見て顔をほころばせた。 石立鉄男さんがタイ焼きおごってくれた Tとセットまで移動する途中、別の現場の谷啓さんとすれ違う。年末は特番の撮影も立て込んでいて、その日は役者さんたちも多かった。Tは「さっき役所広司が廊下にいた」と上機嫌だった。「石立鉄男さんがオレらにタイ焼きおごってくれたんだよ。あの人、いい人だな。何、お前もらわなかったの?」と、はしゃいでいたのが一番強く印象に残っている。 この3年後、Tはガンでこの世を去る。派手な男で、交友関係も広かった。「寝てねえ」「だるい」が口癖で、ビタミン剤を飲んだりしていた。私には、Tの付き合いの多さが早死にの原因のように思えて仕方がない。 高峰さんと出会った日を想うと、楽屋の前で手招きしたTの姿も浮かんでくるのである。 |
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